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#5 パリの最新危険地図
このところ、パリは随分と治安が悪化したと言われる。日本人観光客は狙われ易いというのがここ十年来の定評だったが、最近ではこちらにいる知人から、スリに遭った、強盗に襲われた、バッグをひったくられた、などという話を聞くのも珍しくない。ゴールデンウィーク中にパリを訪れる人のため、今回は、現地から見た最新のパリ犯罪事情をお届けしたい。
空港やホテルで置き引きされないように手荷物に気を配るとか、エレヴェーターにひとりで乗らない、レストランやカフェで食事中に椅子にかけた上着から財布を抜き取られないよう用心するなどというのは、ガイドブックに必ず書かれている注意事項である。こうした海外旅行のいわば一般常識はそちらに譲るとして、まずはパリ特有の犯罪から見ていこう。
日本からパリに来ると、まずシャルル・ド・ゴール空港に到着する。その後、パリ市内へのアクセスとして、RER(高速郊外鉄道)を利用する人も多いだろうが、昼間はともかく、夜、それも遅い時間にこの鉄道に乗るのはあまりおすすめできない。深夜に近くなるとこの列車内は急に人気がなくなり、数少ないその利用者も、心なしか怪しげな人が多くなる。現に車内でからまれたり、暴行されたりした例も報告されている。もっとも、パリ市内に向かう観光客がたくさんいる時は彼らと同じ車両に乗ればよいかもしれないが、一人もしくは小人数のグループの場合は、他の交通手段をおすすめする。
例えばエール・フランスのシャトル・バスや、Roissy Bus(ロワッシー・ビュス)を利用して中心地に出るか、あるいはタクシーでホテルに直行してしまったほうがよい。到着当日は極力トラブルを避けて早めにホテルで休むのが、後々の観光にとってどれだけ大切なことかは言うまでもない。
さて、パリ観光の足として、メトロ(地下鉄)は欠かせない。だが、メトロの中で財布をすられたと言う人の数もまた、想像以上に上っている。特に、バスチーユ、ルーブル美術館、チュイルリー公園、コンコルド広場、シャンゼリゼ・・・といった観光名所を結ぶメトロ1号線での被害は多い。一般的にスリは、すぐ逃げられるよう車両のドア付近で仕事をするらしいので、メトロに乗ったらまず出入り口には立たず、座席に座ってしまうほうがいい。
だが、筆者が交通手段として最もおすすめするのは、路線バスである。バスの路線図は一見複雑なようだが、マスターする価値は充分にある。バスを使いこなせれば、安全なうえに、パリの様々な通りを走るバスからの眺めは格別なので、観光地への移動時間もまた存分に楽しむことができるはずだ。バスの乗り方について記述してあるガイドブックを参考に、ぜひ挑戦していただきたいと思う。
では、犯罪が多発することで知られている観光地を見ていこう。パリ右岸の北部にあるモンマルトル地区は、ユトリロが愛した町並みや「ムーラン・ルージュ」が残っていることで常に各国ツーリストで賑わう場所だが、一歩さびれた裏道に足を踏み入れると、日中でも危険な地域に早変わりする。こちらでは、朝の時間にナイフをのどに当てられて、上着ごと財布を強奪された人もある。
またモンマルトルのそばには、有名なサクレ・クール寺院がある。この寺院やダリ美術館への最寄駅として、メトロのABBESSES(アベッス)駅が紹介されているが、ここも現在は要注意の駅となっている。入り口にはギマールの意匠も残されたたいへん歴史ある駅としてガイドブックのグラビアでは有名な駅だが、駅自体もその通りに古いつくりのままで、この駅のホームから地上へ出るには、大型のエレヴェーターか、あるいは長くて暗い洞窟のような場所をまわる螺旋階段しかない。もしこの駅に降りたら、ほかの観光客と一緒にエレヴェーターですばやく地上に出るべきである。螺旋階段の壁に描かれた絵が面白いからといって、長いこの階段を上るのは、とにかくやめておいたたほうがよい。昼の2時に、この階段でナイフを持った二人組に襲われたカップルもある。この地域に住むどのフランス人達も「あそこでなら襲われても不思議ではない」と口をそろえる駅である。
一大ショッピングセンターとなっているForum des Halles(フォーロム・デ・アル)も注意が必要だ。ショッピングセンターの長いエスカレーターに乗るときは、特にバッグをしっかりとつかみ、ショルダーバッグなら、ダサくとも斜め懸けにすべきだ。反対側のエスカレーターには、こちらのバッグを簡単にひったくって逃げる足の速いプロが待機している。
また、最近よくガイドブックやテレビ情報番組に登場するパリのエスニック地域、ベルヴィル。ベトナム、中国、カンボジアなど東洋の料理店が並んだ魅力的な場所である。フランス料理に食傷気味になって、ベルヴィルに中華料理を食べに行く観光客もあるだろうが、ここも、深夜はかなり危険度が上がる地域だと言っておきたい。裏露地には、ピストルを携えた少年ギャング団も出没する。実は私もその被害にあった一人なのである。
さらに、蚤の市として有名なクリニャンクールには、日本人を狙った強盗がいて、なかには催涙ガスを使う凶悪な例もあると聞く。こちらでは、蚤の市を訪れる時は財布もカードも何も持っていかない、つまりは冷やかしに行くだけの人が大半だが、日本人観光客は多額の現金やカードを持ち歩くことが知れわたっているのだ。
これらの有名な犯罪地域に、加えておきたい地域がさらに二つある。右岸のオペラと、左岸のカルチェ・ラタンである。オペラ付近には日本の銀行や日本食の店が多く、日本からの観光客なら一度は足を運ぶ場所だろう。そのついでに銀行でお金をおろした人が、ATMから引き出したばかりの現金をカードごと奪われる被害が頻出している。オペラを歩いていると、すれ違う日本人の多さについ外国にいることを忘れてしまいそうになるが、ATMを使うときは気を緩めることなく、周囲に不審な人影がないかどうか、よく確かめることだ。ちなみにオペラ大通りとキャプシーヌ大通りの交差する角のATMが特に危ないらしい(銀行の前をうろつく男には要注意!)。盗まれたカードはその直後に不正使用されることがほとんどで、暗証番号などは何のガードにもならないという。
さらに、学生街の知的なイメージがあるカルチェ・ラタンも、近ごろではフランス人でも夜の外出を控える場所に変わりつつある。私の知人も、最近サン・ミシェルの露地でバッグをひったくられたばかりだ。また別の友人は、朝、銀行のATMコーナーに入ると、いきなり注射器を持った男が侵入してきて、いわく「HIVに冒された血だ」と脅され、現金を引き出さされて奪われたとか。これもサン・ミシェルにほど近いプラース・モンジュでのことである・・・・。
いずれにしろ、これらの犯罪から身を守るのは、きわめて簡単なことである。危険に身をさらさない―これに尽きる。昼でも人気のない所は歩かない、夜も一人にならない、あからさまに高級品を身につけたりせず、多額の現金は持ち歩かない。最低限、自己を自ら守る姿勢を忘れなければよい。
それでも心配な方には、このフランス語を教えよう。「Au
secours! オ・スクール!」(助けて!の意味)である。万が一、犯罪にまきこまれた場合、このフランス語さえ叫べれば犯罪者も驚くだろうし、あなたを救ってくれる誰かがきっと現れるはずだ。それでは、準備万端で、ボン・ボワイヤージュ!(よい旅を!)
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